江差追分

（アーソイ　ソイソイ）
国を離れて（アーソイ）　蝦夷地が島にヤンサノエ（アーソイ）　幾夜寝覚めの波枕（アーソイ）
朝な夕なに　聞こゆるものはネー（アーソイ）　友呼ぶ鴎と　波の音（アーソイ）
鴎の（アーソイ）鳴く音に（アーソイ）ふと目を（アーソイ）覚まし

（アーソイ　ソイソイ）
あれが（アーソイ）蝦夷地の（アーソイ）山かいな（アーソイ）
月をかすめて　千鳥が鳴けばネー（アーソイ）
波もむせぶか　蝦夷の海（ソイーソイ）
※ソイ掛け　同様

（アーソイ　ソイソイ）
荒い波風　もとより覚悟　ヤンサノエ　乗り出す船は　浮世丸
西か東か　身は白波のネー　漂う海原　涯もない
泣いたとて　どうせ行く人　やらねばならぬ　せめて波風　おだやかに
泣くに泣かれず　飛んでも行けずネー　心墨絵の　浜千鳥

（アーソイ　ソイソイ）
蝦夷や松前　やらずの雨は　ヤンサノエ　荒れて別れの　風が吹く
泣くも笑うも　今宵が限りネー　明日は出船か　波の上
山背風　別れの風だよ　あきらめしゃんせ　いつまた逢うやら　逢わぬやら
心細さに　ホロリと涙ネー　名残惜しやと　千鳥鳴く

（アーソイ　ソイソイ）
波は磯辺に　寄せては返す　ヤンサノエ　沖はしけだよ　船頭さん
今宵一夜で　話は尽きぬネー　明日の出船を　延ばしゃんせ
泣いたとて　どうせ行く人　やらねばならぬ　せめて波風　おだやかに
泣くなと言われりゃ　なおせき上げてネー　泣かずにおらりょか　浜千鳥

（アーソイ　ソイソイ）
大島小島の　間（あい）通る船は　ヤンサノエ　江差通いか　懐かしや
北山おろしで　行く先曇るネー　面舵頼むよ　先頭さん
鴎の鳴く音に　ふと目を覚まし　あれが蝦夷地の　山かいな
何を夢見て　鳴くかよ千鳥ネー　ここは江差の　仮の宿

（アーソイ　ソイソイ）
大島小島の　間通る船は　ヤンサノエ　江差通いか　懐かしや
北山おろしで　行く先曇るネー　面舵頼むよ　先頭さん
忍路高島　及びもないが　せめて波風　おだやかに
主は奥場所　わしゃ中場所でネー　別れ別れの　風が吹く

（アーソイ　ソイソイ）
松前江差の　津花の浜で　ヤンサノエ　好いた同志の　泣き別れ
連れて行く気は　山々なれどネー　女通さぬ　場所がある
忍路高島　及びもないが　せめて歌棄（うたすつ）　磯谷まで
蝦夷は雪国　さぞ寒かろよネー　早くご無事で　帰りゃんせ

（アーソイ　ソイソイ）
松前江差の　津花の浜で　ヤンサノエ　好いた同志の　泣き別れ
連れて行く気は　山々なれどネー　女通さぬ　場所がある
忍路高島　及びもないが　せめて歌棄（うたすつ）　磯谷まで
蝦夷地海路の　お神威様はネー　なぜに女の　足止める

（アーソイ　ソイソイ）
浮世の荒波　漕ぎ出てみれば　ヤンサノエ　仇やおろかに　過ごされぬ
浮くも沈むも　みなその人のネー　舵の取りよと　風次第
荒い波でも　やさしく受けて　こころ動かぬ　沖の石
波に映りし　月影さえもネー　乱れながらも　丸くなる

（アーソイ　ソイソイ）
波の上飛ぶ　鴎を眺め　ヤンサノエ　目には思わず　ひとしずく
翼あるなら　あの山越えてネー　飛んで行きたい　主の側
音に名高い　お神威様は　なぜに女の　足止めた
出船入り船　数ある中にネー　わしの待つ船　ただ一つ

（アーソイ　ソイソイ）
波路遙かに　想いをかけて　ヤンサノエ　泣けば飛沫も　濡れかかる
巡る年月　待つ身もやせてネー　磯の松風　一人聞く
沖の鴎よ　流れる雲よ　せめて伝えよ　この心
主の船唄　夜毎に聞いてネー　共に暮らすは　何時じゃやら

（アーソイ　ソイソイ）
けむる渚に　日はたそがれて　ヤンサノエ　沖にいさりの　火が灯る
江差よいとこ　寝覚めの床にネー　通う千鳥の　鳴く音聞く
松前江差の　鴎の島は　地から生えたか　浮島か
月をかすめて　千鳥が鳴けばネー　波もむせぶか　蝦夷の海

（アーソイ　ソイソイ）
浮世の苦労も　荒波枕　ヤンサノエ　月を抱き寝の　浜千鳥
明日はいずこの　大海原でネー　荒い波風　しのぐやら
船底の枕外して　聞く浜千鳥　寒いじゃないかえ　波の上
辛い想いに　泣くのじゃないがネー　月が泣かせる　浜千鳥

（アーソイ　ソイソイ）
波は千鳥に　千鳥は波に　ヤンサノエ　後を追うたり　追われたり
一夜泊まりの　船頭衆に惚れてネー　ついちゃ行かれず　泣き別れ
沖を眺めて　ホロリと涙　空飛ぶ鴎が　懐かしや
空飛ぶ鴎が　もの言うならばネー　便り聞きたい　聞かせたい

（アーソイ　ソイソイ）
大島子島は　めおとの島よヤンサノエ　なぜに奥尻　はなれ島
吹くな夜風　片帆に持たせネー　月に棹さす　筏舟
雪の空より　ほのぼの明けて　雲のかなたに　蝦夷が島
今宵入り船　江差の港ネー　遙かに見えるは　かもめ島

（アーソイ　ソイソイ）
浮世離れて　奥山住まい　ヤンサノエ　月雪花をば　友として
岩に砕ける　水音聞けばネー　過ぎし昔が　しのばれる
波の音聞くが嫌さに　山家に住めば　またも聞こゆる　鹿の声
秋が来たかと　紅葉に問えばネー　鹿と相談　せにゃならぬ

（アーソイ　ソイソイ）
蝦夷の前浜　鰊が群来（くき）て　ヤンサノエ　いさむ舟子の　大漁節
曳けや浜から　黄金が上がるネー　黄金千石　二千石
江差の五月は　江戸にもないと　誇る鰊の　春の海
姥が神代の　昔も今もネー　土地の花なり　かもめ島

（アーソイ　ソイソイ）
今宵一夜は　緞子の枕　ヤンサノエ　明日は出船の　波枕
昨日西風　今日南風ネー　明日は浮名の　辰巳風
櫓も櫂も立たぬ千尋の　深みにはまり　綱も碇も　届きゃせぬ
底の知れない　心の海にネー　うかと碇は　おろされぬ

（アーソイ　ソイソイ）
北かと思えば　まただしの風　ヤンサノエ　風まで恋路の　邪魔をする
昨日西風今日南風ネー　明日は浮名の　辰巳風
北（あいの）風別れの風だよ　あきらめしゃんせ　いつまた逢うやら　逢えぬやら
船を出しゃらば　夜深に出しゃれネー　帆影見るさえ　気にかかる

（アーソイ　ソイソイ）
船は櫓でやる　櫓は唄でやる　ヤンサノエ　唄は船頭衆の　心意気
飲めよ騒げよ　今宵が限りネー　明日は出船の　波枕
板一枚下が地獄の　アノ船よりも　下の二枚が　おそろしや
風は吹かねど　こころの波に　舵の取りよが　むずかしい

（アーソイ　ソイソイ）
蝦夷へ行くときゃ　涙がこぼる　ヤンサノエ　帰るものやら　別れやら
情けないぞや　今朝降る雪はネー　主の出船を　見せもせず
泣いてくれるな　出船のときは　綱も碇も　手につかぬ
ならばこの身を　鴎に変えて　後を追いたい　主の船

（アーソイ　ソイソイ）
想いあまりて　磯辺に立てば　ヤンサノエ　哀れさびしき　波の音
沖の漁り火　かすかに燃えてネー　遠く寄せ来る　暮れの色
月は照る照る　夜は更け渡る　磯の波音　高くなる
浜の真砂に　想いを書けばネー　憎や来て消す　夜半の波

（アーソイ　ソイソイ）
空を眺めて　ホロリと涙　ヤンサノエ　あの星あたりが主の宿
逢いたい診たいは　山々なれどネー　悲しや浮世は　ままならぬ
胸に千把の　萱焚くとても　煙たたせにゃ　人知らぬ
主を待つ夜は　悲しさまさるネー　泣いてくれるな　浜千鳥

（アーソイ　ソイソイ）
切れて今更　未練はないが　ヤンサノエ　主はいずこで　暮らすやら
雨の降る夜も　風吹く夜もネー　思い出しては　しのび泣き
主は今頃　起きてか寝てか　思い出してか　忘れてか
波の飛沫に　磯浜千鳥ネー　濡れて明け暮れ　泣くばかり

（アーソイ　ソイソイ）
風のたよりは　松吹くばかり　ヤンサノエ　君は姿を　なぜ見せぬ
波は寄せても　砕くるばかりネー　岩もこの身も　やせ細る
人頼みせねば逢われぬ　身を持ちながら　逢えば愚痴やら　涙やら
巡る浮世に　はかない縁（えにし）ネー　いつまた逢うやら　逢えぬやら

（アーソイ　ソイソイ）
一筆書いては　ホロリと涙　ヤンサノエ　どう書きゃまことが　届くやら
雲に架け橋　かすみに千鳥ネー　及びないのに　恋をする
雨垂れの音と知りつつ　もしやと思い　幾度枕を　あげたやら
磯の鮑を　九つ寄せてネー　これも苦界の　片思い

（アーソイ　ソイソイ）
芦の入り江は　霞にくれて　ヤンサノエ　灯影ゆらめく　岸の宿
暑さ知らずの　蝦夷地でさえもネー　夏は来て飛ぶ　蛍虫
人は涼しと　いう川岸に　なぜに蛍が　身を焦がす
空にゃ上がれず　水にはとけずネー　闇に迷うて　いるばかり

（アーソイ　ソイソイ）
国を出る時ゃ　涙で出たが　ヤンサノエ　岬かわせば　先ゃ急ぐ
吹くな夜嵐　片帆に持たせネー　吹くな抱き寝の　波枕
蝦夷は寒かろ　来て行かしゃんせ　わしが手縫いの　この上衣
粉雪さらさら　松前船をネー　泣いて送るか　浜千鳥

（アーソイ　ソイソイ）
逢いに北見を　主白糠で　ヤンサノエ　狸根室で　釧路向き
酒に与市か　高島いびきネー　何を聞いても　岩見沢
宗谷そわずに　別るるならば　私ゃ美国と　なるわいな
声が高島　静かに忍路ネー　忍ぶ小樽の　仲じゃもの

（アーソイ　ソイソイ）
今宵目出度く　この家の庭に　ヤンサノエ　晴れて見交わす　めおと松
春はなおさら　緑も深くネー　操正しき　松の色
荒海の波にもまれて　生えたる昆布は　主と祝儀の　契り草
生えてうれしや　二葉の松はネー　家の柱と　なるばかり

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