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東北遠野河童伝説  河童ニュース



河童といえば緑色でなぁ、背中に甲羅をしょって頭にちょこんと皿があるもんでなぁ。

んだども、遠野の河童はちーとばかり違ってな、遠野の河童は緑ではなく赤い色をしているもんでなぁ。
馬っこを洗うためにいっつも近くの川に連れて行って洗ったんだと。

んだどもその川にはいたずら好きの河童がいてなぁ、人や馬っ子を引きずり込んでいたんだと。
そんなある日ののことなぁ、長者どんがまだ寝ていた使用人である子供を起こして「馬っこを小屋に入れたままにすっと体が腐るから近くの川に連れて洗っとけ」といったんだと。

子供は眠い目をこすってなぁ、馬っこを連れて川に行ったんだと。

最初は馬っこを洗っていたんだどもやっぱり子供なもんだからなぁ、途中であきてしまって馬っこほっぽりだして遊びに行ってしまったんだと。

その時に川ん中から河童が出てきてなぁ、馬っこを引きずり込もうとしたんだと。
んだども、馬っこは木につながっていねぇもんだから河童が馬っこの尾っぽをつかんだら馬っこは気がつかなえでな、家のほうに歩いていったんだと。

河童は地上に出たもんだから力がはいらねぇでな、馬っこは長者どんの家に戻ってな、河童も尻尾につかまったまま馬にくっついていたんだと。

馬がいつのまにか戻っているのを見て長者どんは「なんだ、あのやろっこ川にでも落ちたのか、んだども、どうせかわりのやろっこはいくらでもいるからいいべなぁ」と馬っこを小屋に入れたんだと。

河童はなぁ、「なじょしてもどればいいべぇ」ってどうにかして戻ろうとしたんだども、昔の家は馬屋と人のすんでいるところが同じでなぁ、馬っこと人にはさまれたんだと。

そうしているうちに今まで気がつかなかった馬っこも次第に暴れ出したもんだから長者どんが小屋に戻ってみっと小屋の中になぁ河童がいたんだと。

それを見つけた長者どんはたいそう驚いてな、今まで人や馬っこを川に引きずり込まれて殺されていたもんだから家中のもんを呼びだしてな、ついに河童を捕まえたんだと。

長者どんは河童を殺そうとしたんだと。

そうしたらこの騒ぎを聞きつけてお寺から和尚さんがやってきたんだと。

「なじょしてこんなに騒いでいるんだ」と、言うもんだから長者どんがこれこれこういうわけでと和尚さんに今までのことを話したんだと。

そうしたら和尚さんはなぁ、「わかった、みなの気持ちはよくわかる。んだどもな、たとえ河童でも殺されるを黙って見すごすわけにはいかねぇべ。

どうだろう、わしがよぉく言い聞かせるから勘弁してけろ。」というもんだから長者どんも、和尚さんに任せっぺ、ってことにしたんだと。


河童狛犬

和尚は河童を寺につれてかえってな、「なじょしておめぇは人や馬っこを川に沈める」ていうんだと、そうしたら「おらぁ、人食っていかなきゃ生きていくことができね」というんだと。

そうしたら和尚さんはなぁ「おめぇのいうこともわかる、んだどもな…」と説教をはじめたんだと。

「わかった。もう悪りぃことはしねぇ」っていうもんだから和尚さんは河童を逃がしてやったんだと。

そんなある日、お寺が火事になったんだと。

和尚さんは慌てなぁ、近所の人を呼んだんだと。

そうしていざ火を消そうとしたんだどもお寺の火はすっかり消えていたんだと。

和尚さんはお礼を言おうと誰が消しのかきいたんだと。

んだどもみんな口々そろえて、おらじゃねぇ、っていってな。

誰が火を消したかわからなかったんだと。

不思議に思った和尚さんがなぁ、水の落ちているところを辿っていったんだと。

そうしたら前に助けてやった河童の住む川についたんだと。

和尚さんはなぁ、河童が助けてくれたんだと、河童にお礼を言おうとしたんだと。

んだどもそれ以来川に行っても二度と河童に会うことはなかったんだと。

和尚はせめてもの感謝の気持ちと河童の形をした狛犬をお寺に作って置いたんだと。

これが河童狛犬のいわれなんだなぁ。

どんどはれ。

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むかしあったずもな、ある村におっとうと娘がおってな。

二人は白い馬を飼っていたんだと。

娘と馬っこはとっても仲がよくてなぁ、娘が生まれた時からずーっとどこ行く時も一緒だったんだと。

娘が年頃な頃になるとなぁ、馬っこと娘は離れたがんねぇもんだからとうとう娘は馬屋で馬っこと一緒に寝泊りするようになったんだと。

そして、馬っこと一晩中語り合っていたんだと。

心配したおっとうが馬屋をのぞくとなぁ、馬っこと娘は夫婦になっていたんだと。

それを知ったおっとうはなぁ、たいそうおこってしまい翌朝に娘に内緒で馬っこを裏山に連れて行ったんだと。

そうしてむごい事に馬っこの首に紐を結わえ付けて桑の木に引っ掛けたんだと。

そうして馬っこをぶらさげてなぁ、ついに馬っこは死んでしまったんだと。

そんなことはしらねえで娘は馬っこを探していたんだと。

いくら探してもみあたんねえもんだからなぁ、だんだん心配になってきたんだと。

そうして夜になるとなぁ、裏山が光るもんだから娘は慌てて裏山にいったんだと。

そうしたらそこには桑の木につるされた馬っこがいてなぁ、娘はとてもかなしんだんだと。

後をつけていたおっとうがなぁ、馬っこの首をぽーんと切っちまったんだと。

そうしたら娘が馬っこの背中にまたがってなぁ、空にふわぁっと天にのぼって行ったんだと。

おっとうがいくら呼んでもついに娘は帰ってこなかったんだと。

おっとうはとても悲しんでな、家に帰ってもおいおい泣いていたんだと。

そして夢の中に娘と馬っこがでてきてな「おっとう、おらはもう家には戻れねえけんども春になったらうすの中に馬の頭した虫がいっからそいつが出す糸売って生活してくんろ」ってなぁ。

言われたとおり春になるとうすの中に見たこともねぇ馬の頭に似た虫がいたんだと。

さっそく、おっとうはその虫に馬っこがつるされた桑の木になっている葉を食べさせてな。

そうしたら立派なまゆができてそれ売っておっとうは生活したんだと。

それからというものなぁ、娘と馬っこは養蚕の神様としてオシラサマになって今でも奉られているんだと。

どんどはれ。

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昔あったずもな。

山口村に孫左衛門という何代にも渡って続いた長者どんがあったど。

ある日、同じ村の爺様が町からの帰りに、橋の辺りで、見たことのねえ娘二人と行き会ったど。

「おまえら、どこから来た」と聞くと「山口の孫左衛門のところから来た」って答えだど。

「これからどこへ行く」と尋ねると「隣村の何某の家に行く」と答えたど。

爺様は孫左衛門の家も長い事無いなと思ったが、誰にも言わねがったど。

それからというもの、孫左衛門の家には不思議なことばかり起きたんだど。

ある日、草を干してた所へ大きな蛇が出だど。

孫左衛門が「屋敷の中の蛇は殺すもんでねえ」って言ったにもかかわらず、言うこと聞かねで殺してしまったんだど。

その後からも蛇、いっぺ出たんだけど、皆殺して蛇塚を立てたんだど。

その次の年の秋、蛇塚を立てたそばの梨の木の回りにうまそうな茸がいっぺ生えたんだど。

皆が「食うべ」と言うのを、孫左衛門が「やめろ」って止めだずども「どんな毒でも、おがらで何回も掻き混ぜて洗えば大丈夫なもんだ」という若い者の言うこときいて、みんなして食べだんたど。

とってもうまかったずが、毒にあたってみんな死んでしまったど。

たった一人だけ、7才になる女児だけが外へ遊びに行ってて、食わながったので助かったんだど。

んでも孫左衛門が死ねば、親類だという人達が「くれると約束してだ」とか「おらが貸したもんだ」ってみんな孫左衛門の家財を持ってってしまい、何も無くなってしまったんだど。

人のいい叔母だけが、「おれはこの子貰うから」って育てたが、長生きはしながったんだど。

孫左衛門は、頭よくて八卦も置くことできたったずが、自分のことは分かんねがったんだどさ。

どんどはれ。

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昔あったずもな。

松崎の寒戸って家、あったずが、あるとき、そこの家の7つ8つになるおなごワラシコいたずもな、このワラシは、ある冬の寒い日、外サ遊びに行ったまま、いっこと帰って来ねかったずもな。

赤い緒っこのじょうりっこ履いて、ややぶっこ持って遊んでら。

この女の子は、暗くなっても帰ってこない。

親類の人達、隣あたりの人達は、それを聞きつけて、みんなで探した。

「どこサ行ったべか、何じょうになったべ」と、暗くなるまでみんなで探したが、見つけることが出来なかった。

家の前の大きな梨の木があったが、その根元にその女の子の履いていた赤い緒の付いた草履と、その側には遊んでいた人形(ややぶっこ)が置いてあった。

人形と草履がここにあるから、この子は何かにさらわれてしまった、と、そこの家の旦那殿は言った。

その日を命日にして、人形と草履を形代[かたしろ]に、葬式を出した。

それからというもの毎年、来る年も来る年も、親類だの隣あたりの人達を招んで、その子の供養をした。

それから、30年経ったか50年経ったか、分からないけれども、その日もまたうんと寒い日だった。

親類だの隣あたりの人達を皆招んで、その子の供養をしていた。

すると、いつどこから来たのか分からないけれど、白髪頭のボロボロの着物を着て、擦り切れた草履を履いた婆さまが縁側に来て、座っていた。

“あや〜、この婆さまどこから来たべ? こんな婆さま、見たことねえが!”と、そこの旦那殿は、縁側に出てきた。

「これこれ、婆さま。おめえどっから来た?」と、聞いた。

婆さまは「おれか〜?」と言った。

「ここの家から、30年前にさらわれた娘だ」旦那殿「おめえ、いいとこサ帰ってきたな。

みんなでおめえの供養してらとこだから、中に入れ入れ」と、手を手繰って引っ張ったが、婆さまは言った。

婆「いやいや、そんなことしていられね」そしてこんなことを言った。

・・・この家の人達はどうしているか、親類や隣あたりの人達丈夫でいるか、一目でいいから、会いたかった。

それを聞いた旦那殿は、「何たら、きょうだいでねえか、入れ入れ」しかし、婆さまは、そうしてはいられない、と言った。

・・・この家の人達は達者で、親類や隣あたりの人達も一向変わりなく、元気でいるようだから、自分は何も思い残すことはない。

その日も北風の吹く寒い日だった。

婆さまは「このまま、おれ帰るから」そう言うと、風に乗ってどことも知れず、行ってしまった。

それからというもの、寒戸あたりの人達は、冷たい風の吹く夕方に、子ども達がいつまでも外で遊んでいると、「寒戸の婆さま、来るんだぜ」と、言うんだとさ。

どんどはれ。

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昔、武蔵坊弁慶が、綾織にある「続石」という石組みを作ったんだど。

続石は二つ並んだ六尺ばかりの台石の上に、もっと大きな石(笠石)が横に乗せられて、人が楽にその下を潜るにいいんだと。

弁慶は、初め、笠石を持って来て、今の泣石の上に置いたんだと。

そしたらこの泣石が「おれは、位の高い石なのに、一生末代この大岩の下になるのは、やんた やんた」 って一晩中泣いたんだど。

弁慶も困って 「分かった。

分かったから泣くな」 ってなだめたんだど。

それで、別な大岩を運んで来て台石にしたが、その時踏ん張った弁慶の足形が、くぼみになって笠石に残っているんだと。

泣石は、今でも続石の隣に立って、涙っこ流しているんだとさ。

どんどはれ。


  続き石
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昔、若い女たちが田植えをしている所へ、一人の旅人が子供をおぶって通りかかったど。

その子供は、目も鼻もないのっペりした頻に赤い頭巾かぶせたものだったど。

女たちが手を休めて、不思議そうにしていると、男は、「これ本当は子供でね。

おれの品物だマス」 って言ったんだど。

女たちが、ますます不思議がると、「なんの因果だか、おれは、こんなもの持って生まれた為に、まだ、がが(妻)も持てながんす。

おれは前世の罪滅ぼしをするために旅をしてます」って帯を解いて、肩から子供を降ろして見せたど。

村の女たちは、たまげて声も出なかったど。

ところが、どういう訳か、その男はしばらくそこにいて、今のお駒様の所で死んだんだど。

そこで、気の毒に思った村の人達が、神様として祭ったのが、今の駒形神社なんだとさ。

どんどはれ。

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昔、遠野には大きな沼がたくさんあったど。

愛宕下の沼の主は、離れた百姓家の美しい娘が欲しくて、その家に使いをやったど。

ある時、そこの旦那殿、庭先で箒にまとわりつく小さな蛇をパタンと殺したど。

すると、急に家の人達が何人も病気になってしまったど。

たまげた親父が巫女(いだこ)に見てもらうと「お前、沼の主の使いを殺したな」と言われたど。

覚えはないから、小さな蛇の事を話したら、「それが娘を貰いに来た主の使いだったんだ」と教えられたど。

旦那は恐縮して、卯子酉さんを建てて祭ったら、家の人達の病気はすぐよくなったど。

だが、美しい娘はその話を聞いて病気になり、死んでしまったど。

親父は「主だってあの位欲しかったんだもの、死骸ばかりも」って沼の辺(ほとり)に埋めたら、次の朝間、その死骸は無くなっていたど。

それから、そこの沼には主の片思いで、片葉の葦が生えるようになったんだと。

また、そのお堂は娘を貰いに行った神様だから、今では、縁結びの神として祭られているんだとさ。

どんどはれ。

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昔、土淵のある家に気のいい嫁っこがいだったど。

ある時、蕗取りに山さ迷い込んでがら、気が付いたら黒塗りの大きな塀のある家の前だったど。

恐る恐る、塀の中に入ってみたら赤と白の花がいっぱい 咲いて鶏も遊んでいたど、裏に回ってみると馬屋に牛だの 馬だのたくさんいたったど。

玄関を覗いてみたら誰もいないから、常居に上がると黒と赤の膳と椀が用意してあったど。

座敷の床の間には立派な掛け軸がかけてあるし、鉄瓶の湯がチンチンと沸いて、今にも人が出て来そうだったど。

嫁っこも「山賊の家でねが」と思ったら急におっかなくなったど。

どこか走ったんだか、後ろも見ないで家さ馳せこんだど。

でも、見て来たことを聞かせても、家の人達はだれも信用しなかったど。

二、三日後、嫁っこが門前で洗い物していると美しい椀こが流れて来たから拾ってキシネビツさ隠して置いたど。

ところがその椀こではかると、なんぼ計っても穀物がなくならないから、その家は、だんだん物持ちになったんだど。

山中にあるマヨイガに出会った人は、その家の物を何でも持って来れば、金持ちになるんだと。

その嫁っこが、無欲で何も持って来なかったから、椀この方で流れて来たんだとさ。

どんどはれ。

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昔、あったずもな。

一日市の孫四郎つ人だづが、ある時、物見山さ朝草刈りに行ったずもな。

そすて、池のほとりで、ざくざく、ざくざくと朝草刈ってれば、だれが、「孫四郎殿、孫四郎殿」って叫ぶ人あったったずもな。

孫四郎の人ァ 「こんたな、山中で、おれの名なんど呼ぶものァあるはずぁねえが」ど思って、そごら見たどもだれもいねえがら、また刈りはずめたずもな。

そすてぱ、さきなかずよりも高けえ声で、「孫四郎殿、孫四郎殿」って叫んだずもな。

孫四郎の人ァ、 「はで、だれだべ」と思って後を見でば、うしろさなんともいわれね美すう、お姫さまみてえな姉さま立ってたったずもな。

そすて、にかにかっと笑って孫四郎の人見て、「こっちゃこ」って手まねぎしだずもな。

孫四郎の人ァ鎌ば持ってらども、こんたな山中に、こんたな美すう姉さまァいるはずァねがら、狐か狸のしわざだど思ってぶるぶるってらずもな。

しては、その姉さまァ、またにかにかって笑って、「ごっちゃこ」って手まねぎしだずもな。

孫四郎の人ァ、姉さまのそぱさ鎌持って行ったずもな。

そしてばその姉さま、「孫四郎殿、孫四郎殿。

おれ、お前さお願げぇあるが、おれの用っこ足してけねが」って言ったずもな。

そすてぱその係四郎の人ァ、『なんでがんべえ」って言ったずもな。

そすてばその姉さま、「いやあ、お前、こねぇだに上方見物さ行ぐがら、おれさ用こ足してけろ」って言ったずもな。

そすてぱその孫四郎の人ァ、「なあに、おら、上方さもどごさも行がねます」って言ったずもな。

そすてぱその姉さま、「いやいや、是非とも行ぐがら、用っこ足してけろ」って言ったずもな。

そすてその姉さま、手紙っこ一本と、銭っこ入った小袋っこ持ってきたずもな。

そすて孫四郎の人さ、「実ァ、おれァ、大阪の鴻池がら一年前に嫁ごに来でがら、まだ家さ便りずものいっこすたごどねえがら、この手紙っこ特って、お前、上方さ行ったら、大阪の鴻池さ行って、これ鴻池の者さ渡すてけろ」って、手紙っこたのまれだずもな。

そすて、「この小袋さば百文の銭っこァ入ってから、これみんな使ってすまねぇで、なんぼが残すとげぱ、次の日ァまた百文になってから、これ小遣けぇ銭にして行ってけろ」って言れて、持っていったずもな..そすて、「だれぇさもしやべんねぇでけろ」って言れで、すまってらずもな。

そすてぱ、一週間ぱりたってば、村の若けえ人達ァ、「孫四郎殿、孫四郎殿。

参宮に行がねか」って来たったずもな。

孫四郎の人ァ、「おらあは、行かねぇ行かねぇ。

銭っこもねえし、おらァ、行かねぇ」ったずもな。

そすて、ことわってやっても、またあ来たったずもな。

「一人足んねえがら、是非ともあべ」ったずもな。

その時、孫四郎の人ァ、「ははあ、これのこったな」と思ったずもな。

そすて、その姉さまがら頼まれた千紙っこ持って、その、もらった小袋っこの銭っこ持って、伊勢参えりに行ったずもな。

そすて、お伊勢参えりも終わって、上方さ入ったすもな。

そすて、いかにもその小袋っこ銭っこ、なんぽか残すとけば、次の日ァ、また百文になってっから、一向銭っこにも不白由さねえように行ったずもな。

そすて、上方さ入ってがら、その物見山の姉さまに教ぇられた、大阪の鴻池さの上がり口さ行ったずもな。

孫四郎の人ァ、「おれァ、こごにぺっこ用っこあっから、みな先に行ってけでげ」って、してやったずもな。

そすて、孫四郎の人ァ、こごがら上ってけぱ木ァあるつどごにある、石あっとごさある、池あったったずもな。

そごの池さ行ったら「手三回叩け」って教ぇられてっだから、パン、パン、バンと三回、手叩てぇだずもな。

そすてぱ、物見山で見た姉さまにおとらねえ、美すう姉さま出はってきだずもな。

そすて、「これ、物見山の姉さまがらたのまれできました」って、手紙っこ見せてば、その姉っこ、「ああ−、妹の便りだ」って、「一年前に、物見山さ嫁ごに行ってがら一向便りァねからなんじょになったっもんだべ、死んだもんだべが、なじょになったべと思っていだ。

ああ、達者でだが」って、開れえてみたずもな。

そすて、「おればりして見てられねえがら、家の人達にも見せてえがら一時間まってけねげ」「お前、おれの用っこ足すべっとみんなに遅れてすまったがらいま、おれ馬で送るがら、一時間待ってけでげ」って、そすてまた池の中さ入ってったずもな。

そすて、がぽがぽがぽ−っと、葦毛馬と一緒に、その姉さま上がってきだったずもな。

そすて、「この為さ乗ってげ」って言ったずもな。

そすて、「この馬さ乗ったら、眼しくってげ」ったずもな。

だから、孫四郎の人ァ、その馬さ乗って眼しくったずもな。

そすてぱ、その鞍、三回げれぇ、ぐらぐらってゆれたよな気したったずが、馬ァ止まったずもな。

「馬ァ、止まったら眼開てみろ」って言れだから、眼開でみでぱ、じき前の茶店っこに、相手の人達ァ、なにか飲んだり食たりしてだずもな。

そすて、「馬がらおりれぱ、馬一人で来るがら、馬は、かまあねくてもいい」って言れだから、馬がらおりでば、ほに馬いねえぐなったずもな。

 そすて、その茶店さ行ったずもな。

そすてば、その茶店の且那殿に、「あの山さ上がって、いまだかって一人も帰えった人ァねえがら、死んだんだがら、待ってねえで行くべが」ってしやべってだずもな。

そすてっとごさ、孫四郎の人ァ、ほれ、「いま来たじぇ」って言ったずもな。

さあー、そすてぱ、みんなかがって、「どごさ行って来た。

なんたなどごさ行って来た」って、まるでほに、鼻引っぱったり、耳引っぱったりすて、聞いだずども、誰さも言べんねでけろって言れだから、「さっぱりほでねや。

おれぇ、夢みでたんや」って、言べんねずもな。

そすて、上方見物も終わって、家さ来たずもな。

そすて、家さ来てがら、孫四郎の人ァ、鴻池がら頼まれてでた手紙っこ持って、物見山さ行ってたずもな。

そすてまだ池の辺で、パン、パン、パンと三回手叩てぇぱ、この前、手紙っこ頼んだ姉さま出はって来たずもな。

「鴻池がら、これ頼まれてきますた」ってば、その姉さま、まるんで喜んで、「ああ、親も達者でらだ、姉妹も達者でいらったが」って、まるんで喜んだずもな。

そすて、その姉さま、孫四郎の人さ、「あーあ、お前のような正直な人だがら、この用っこ足してけだが、他の人で用っこ足しぇね」って、言ったすもな。

そすて、「おれぇ、なにがお前さ礼してえども、なんーにもけるものねがら、これ、けっから」って、ぺっこなひぎ臼っこもらったずもな。

そすて、その姉さまァ、孫四郎の人さ、「毎日これさ米っこ一粒入れで、くるっと回せば、銭っこ出はっから、これ小遣銭に使ってけろ」って、もらったずもな。

そすて、孫四郎の人ァ、家さ特って来て神棚さあげて、灯火っこつけで、茶碗さ水っこ入れで、その水っこ毎日取っけぇ取っけぇ、裏さ投げ投げ、米っこ一粒入れでくるっと回せば銭っこ出はっから、いいくしぇ小金特になったずもな。

そすてぱ、そごの家の婆さま、それ見でれがら、「あのくされ爺さま、われぱりして銭っこ特って、ほっぼほっぽてけづがっから、いづが爺さまのいねえ時、ほまづしてける」気になったずもな。

 そすていだったずァ、ある時、爺さま、用足すに行ったずもな。

そうすっとその婆さま、「ようす、今日こそはいっぺほまづする」気になって、その婆さま、爺さま一粒米入れで、一回り回すだぱりであんなに銭っこァ出はるもの、いっぺ入れでいっぺ出す気になったずもな。

そすて、きしね櫃さ行って、大きな椀特ってって、ざっくり米はがったずもな。

そすて、そのひぎ臼さ入れでがらいぎなり回してば、ねえさ銭っこなんどァ、出はるどごの騒ぎでね。

そのひぎ臼っこの方ァ棚がらどたんと落りで、ごろごろと転がって、そすて裏のぺっこな池さ入ってすまったずもな。

さあ、その婆さま大変なごとすた。

爺さま来れば怒られっと思って、一生懸命掘ったずども、とうとうそのひぎ臼っこ出はんねえですまったんだど。

そすて、池のそばさ家建でだので、池ノ端、池端という姓で、今なお『池端精米所」って繁盛すています。

どんどはれえ。

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昔、小友の水口(すがぐち)におせんという若い嫁こがいたど。

お仙は「胸のところに鱗のようなものが出て気になるや」と言っていたが、ある日、後ろの山へ入ったきり帰って釆なかったど。

乳飲み子を山へ連れて行くと、始めは出て来て乳を飲ませていたが、そのうち「おれ、蛇になってしまったから二度と来ねでけろ。

いくら夫でも自分の 子でも、人間を見ると食いたくなるから」と、言うことだったど。

その年は、秋に暴風雨があって、水口のあたりは大洪水になったど。

おせんはその出水に乗って、後ろの山から小友川に流れ出て、元の女の姿になっ たど。

「あれおせんだ。

おせんやー」って、みんなして叫んだが、おせんは水に飲まれて、たちまち姿が見えなくなってしまったんだど。

それからは、おせんが主(ぬし)になった淵をおせんが淵と呼び、おせんが通った山の洞を蛇洞(じゃぼら)と言うんだとさ。

どんどはれ。

                                目次へ戻る
 昔あったずもなな。

あるどごに、なにももの知らねえ男あったずもな。

べっこ町さ行って、もの覚べでくべど思って、帳面こど鉛筆持って町さ行ったずもな。

そすて、行くがー、行くが、行ってば、茶店っこあったったずもな。

そごさ行ってば、檀那殿ァいだったずもな。

そすて油樽まくらにすて寝でいら男ァいだったずもな。

男ァ、もの覚えさ行ったがら、茶屋の檀那殿さ、「じぇ、ほんだら、これ、なんつもんなんだます」って聞いてば、その檀那殿ァ、「油樽」って、教えただずもな。

その男ァ、頭の事聞いたども、ほれ、「あぶらだる」ど書いだずもな。

そして、まだ行ったすもな。

行くがー、行くが、行ってば、今度ァ、赤け膳(じぇんこ)こだの、赤い椀こだの売ってっどごさ行ったずもな。

そごさ番頭ァいだったずす。

そごさ行って、「じぇ、じぇ。そんだばら、これ、なんつもんなんだます」ってば、その番頭ァ「朱膳朱椀」って教えだずもな。

だがら、その男ァ、「しゅぜんしゅわん]と書いだずもな。

して、まだ行ったずもな。

行くがー、行くが、行ってば、今度ァ米屋の前さ行ったずもな。

番頭ァ土間(にわ)っこ掃いてらったずす、あどの人達(しどたづ)ァ、馬さ荷物付ける人もあれば、馬がら荷物落とす人もあれば、荷車さ積んで出はる人もあったずもな。

そごさ行ってれがら、その男ァ、その番頭さ、「そだらば、上がったの下がったのつごと、なにすたって言んだます」って聞いだずもな。

してば、その番頭ァ「上洛に下落」って教えだずもな。

そすてその男ァ書いだずもな、「じょうらくにげらく」と。

 そすて、まんず、「おれも、あらがた新しい言葉覚えだがら、田舎さ帰ったら、まっず物知りだべど思って、家さ行くべ」ど思って米屋の錠前(じょうめ)出はったずもな。

そすてば、下の方がら、山伏ァ、「ボホボホー、ボホボホー」ど、ほら貝(げえ)吹いで来たったずもな。

そうすてば、右側の方からば、婆さまなにが持ってきて、 けだど。

こっつの左側の方からば、ががさまなにが持ってきて、けだずもな。

街道(けえど)歩く人達もなにが、けだずもな、その時、その男ァ、「ははあ、ボホボホー」とァ、もらうことだ」ど思ったずもな、そすて、家さ来たずもな。

家(え)に来て1週問ばりたってば、そごの家の息子ァ柿の木さあがったずもな、そすて、すべり落りで、下さ落りで、下の石さ頭ぶつけて、頭さ傷つけだど。

そすて、血たらすたずもな。

さあ、大変だ.薬屋さ、薬注文さねばなんなぐなったずもな。

そごでその男ァ、こねぇだ覚べできた文句で手紙書だんだど。

「わたくしせがれ、かきのきに、じょうらくいたし、げらくつかまつり、あぷらだるをいため、しゆぜんしゆわんをたれながす。

なにとぞ、くすり一ぷく、ボホボホ」ど、書(け)だったんだど。

どんどはれ。


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昔、無尽和尚が東禅寺を建てる時の事だと。

境内によい湧水が欲しくて、早池峰の神様に願をかけたど。

満願の日、女神様が白馬に乗って現れ丸い石の上に降りて言ったど。

「お前の祈りには感心した。

願いを叶えてやるから、サワラの木の下を突いて見ろ」和尚が杖で突くと、良い水がドンドンと湧いてみんなで大喜びしたど。

東禅寺が出来上がってからも、和尚がありがたいお祈りを始めると、女神様はあの丸い石の上にお姿を現すようになったと。

それで、その石を「来迎石」、泉を「開慶水」と名付けたんだと。

開慶水は人が姿を映すと、どんなに晴れていても雨が降ると言われ、柄の長い柄杓で遠くから水を汲む掟だったど。

ある時、無尽和尚が掟を自分から破って、開慶水の水を汲むと、空に向かってパッと投げ散らしたど。

水はたちまち黒い雲になって南を目指して走ったが、みんなは「おかしなことをするもんだ」と思っていだったど。

何日か経って、紀州の高野山からこんな手紙が届いたど。

「過日、当山出火の際は和尚のお力により早速に鎮火しかたじけない。

よってお礼を申す」和尚の法力で、高野山に雨を降らせて、火事をたちまち消してしまったん だとさ」

どんどはれ。

                                目次へ戻る
昔、上郷の曹源寺が荒れてる時の話だど。

旅僧が農家に泊まった時、村人から「あの空き寺には化け物が出るので、住職が住み着いてくれないで困って居る」と言う話が出たんだと。

若い和尚はすぐ「じや、行ってみましょう」と引き受けたと。

次の日の晩、寺に行って見ると、誰も居ないはずなのに、寺男のような者 が一人、本堂に肘枕で寝て居たと。

「おかしいな」とは思ったがその晩はそのまま引き返したと。

次の晩も、同じ男が同じ姿で寝て居たので、「こやつこそ化け物。

正体を現せっ」と、クワッと睨みつけると、寺男も起き上がって開き直ったと。

「何を隠そう。俺はこの寺に住み着いて七代の和尚を食い殺したムジナだ」さあそれからはムジナが妖怪変化の法を使ったど。

紫の雲が出てお釈迦様説法の様子が出たかと思うと、回り一面が火に包まれて合戦が始まる。

そのうちに当たりが真っ暗になると雷が轟き雨が降りだし、本堂が湖になって水がどんどん上がって来たど。

それでも旅僧は、あわてないでお経を上げ、「えいっ」と印を切ったずもな。

本堂の屋根から「ギセーツ」と落ちて来たのは、本当に年とったムジナだったど。

それからは、寺には何事もなく今でも栄えているんだとさ。

どんどはれ。

                                目次へ戻る
昔、青笹に七つの池あったど。

ある日、六角牛山の天人子が水浴びしてい たが、みこ石さかけておいた羽衣を惣助という男に持っていかれたど。

天人 子は朴の木の葉っぱで前を隠して、惣助の家を探したど。

惣助は、(羽衣は)持って来たども、殿様さやってしまった」って言ったので、天人子はうんと泣いたど。

天人子は気を取り直して、田んぼを借りて蓮の種を蒔いたら忽ち花が咲いたから、惣助に笹小屋を立ててもらって機織りしたんだど。

そこがら「青笹」という地名が生まれたど。

曼陀羅が出来たので、惣助が頼まれて献上したら殿様が喜んで、「なんたら立派な曼陀羅だ。

織った者さ御褒美やるがらお城 さ連れてこ」って言ったど。

連れてこられた天人子があんまり美しいがら、たちまち殿様の気に入って そのままお側さ仕えることになったど。

でも、天人子は、お城にいても物も言わね、笑いもしねがら殿様もあきれたど。

そのうちに虫干しが始まったど。

天人子が出て見たら自分の羽衣があるか ら、さっさと着て天さ舞い上がってしまったど。

家来たちが見つけて「あれえ天人子、天人子」って追いかけたが、何ともならなかったど。

殿様もがっかりしたが、あきらめて、その曼陀羅を光明寺に納めたど。

そこから「綾織」という村の名前がついたんだとさ。

どんどはれ。

                                目次へ戻る

昔、爺と婆とあったど。

婆が川から拾って来た瓜から可愛い女の子が出て来たから、瓜子姫子と名 前つけて大事に育てたど。

年頃になって嫁にくれることになって「だれが来ても開けんなよ」って、爺と婆は町へ嫁支度に出掛けたど。

昼頃になったれば、山姥が出て釆て「瓜子姫子ここ開けろ」っ言ったど。

瓜子姫子は「婆にくられっからやんた」って言ったど。

それでも、あんまり何回も言うから、開けたら、入って来て瓜子姫子をはだかにして機織台の下さつないだど。

.山姥は瓜子姫子さ化けて機を織っていたど。

爺と婆が町から帰ってくると、瓜子姫子の機の様子がおかしかったど。

それで、軒端の鳥っこが、「爺爺、機織台の下見ろ」って教えたから、見たらば本当の瓜子姫子がつながれていたったど。

山姥は「爺様婆様、だまされた。

いえー」って山さ逃げて行ったど。

瓜子姫子は新しい着物買ってもらって嫁に行ったどさ。

どんどはれ。

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昔、あるところに貧乏だが、よい馬を持った家があったど。

泥棒は「いつかこの馬を盗んで行きたい」と思っていたし、山の狼も「この馬っこ食いてえな」と思っていたど。

ある晩、その泥棒が来たど。

狼も来て、どっちも家の様子をうかがっていたら、爺と孫の話が聞こえて来たど。

孫が爺様さ、「世の中で一番おっかねもの何だべ。

あの泥棒が」と尋ねると爺様は、「ねえさ、泥棒なんか怖くない」と言う。

「それなら狼が」と聞いたら「それも怖くない」と言ったど。

聞いていた泥棒と狼が「おらより、おっかねものあるんだな」って感心してしまったど。

すると、突然雨が音を立てて降って来たど。

爺様は、むっくりと跳ね起きると「そりゃ『古屋の漏り』来たっ」て言うなり、大慌てで、家中に桶や樽を置いて走り回ったど。

馬屋の桁に隠れていた泥棒と狼だちもこれをれ見て、「さあ、大変だ。

おらよりおっかね物来た」って、馬を取ることなど忘れて、一目散に逃げていったど。

爺様の一番おっかね物は、古い家の雨漏り「古屋の漏り」だったんだとさ。

どんどはれ。

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昔、人のいい爺様が山で木を切っていると「だれだ、人の山の木切るもの」って山の神に叫ばれたと。

屁っぴり爺でがんすと答えると「ほだら、ここさ来て、屁してみろ」って言われたど。

「ちんぽんからりん、ごようの宝をもって参った。

ぽん」と爺がたれたら、も一つも一つと所望され、おしまいにごはうびの「つづら」もらったど。

爺様が帰って見たら宝物一杯入っていたど。

そこさ、隣の欲深婆様が来て見てから、早速自分の爺さまを山さやったど。

やっぱり、山の神の前で屁をたれることになったど。

ところが、中々出なかったずもな。

爺様はやっきになって力んだもんだがら、本物が出てしまったど。

山の神ごせやいて、爺様を叩きつけたど。

隣の婆様、首長くして、爺様が宝物持ってくるの待ってらど。

ところが、爺様は着物も着ないで垢だくれになって泣き泣き帰って来たんだとさ。

どんどはれ。

                                目次へ戻る

昔、隣同士で仲のよい父親たちが、山の神のお堂で同じ夢を見たど。

「今、隣同士の男と女のお産があってさ。

女は塩一升に盃一つのいい運だが、男は米一升だけだな。

隣同士だから始めは一緒にするが、その後はまた考えて見るべ」と言ったど。

二人が帰ると、夢の通り両方の家に男女の子供が誕生し、子らは長じて夫婦になったど。

女房は神様から貰った運で、盃が手から離れない位、出入りのものに酒を飲ませたから、家は繁盛したど。

小心者の夫は面白くながったど。

それで、女房が居ねばもっと長者になれると思って女房を追い出したんだど。

歩き疲れた女房が、道端の大根を抜くと、跡から酒が湧いたど。

それで元気をつけて歩くと、灯が見えたので一夜の宿を頼んだど。

「貧乏だから泊められない」という爺様に「お前様の腰掛けている石は金なんだが」って女房が金の使い道を教えたんだど。

「こんなもの、炭焼小屋の側になんぼでもあるが…」ということで、二人はいつか夫婦になり、たちまち長者になったんだど。

おまけに、女房の方は大根穴から湧く酒こで酒屋を始め、その山はにわかに大きな町になってしまったど。

一方、運の強い女房を追い出した前の旦那殿は、ひどく貧乏になってしまったど。

今では息子と二人で薪を背負って、町へ売りに来るようになったんだとさどんどはれ。

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昔、ある山に、いたずら狐がいだったど。

ある時、その山を郵便さんが越えて行ったら、その狐が昼寝してらったど。

郵便さんはいつも騙されているから、いきなり「わっ」とおどかしたら、狐はたまげて、ピョーンと飛び上がって川さ入ってしまったど。

郵便さんは「よがったべ」と思って、配達終わって又その山まで来たら急に日が暮れて暗くなったんだど。

向こうに燈が見えるから、泊めてもらおうとそこの家の戸を叩いたら「旅の人、丁度よかった。

今、婆様死んで隣さ知らせに行って来るから一 寸番してけろ」って飛び出して行ったんだど。

郵便さんは火を焚いて囲炉裏にあたっていたら、死人を囲った屏風がカタカタと鳴り出したんだと。

そのうちに屏風がガタンと倒れて死んだはずの婆様が出て来たど。

郵便さんは肝つぶれでしまったんだと。

その婆様、今度はお歯黒つけ始めたど。

そして唇から面(つら)から真っ黒くつけた口開けて「わっ」とかかって釆たど。

郵便さんはすっかりたまげて引っ繰り返ったど。

引っ繰り返って落ちた所は、今朝、狐をおどかした川の中だったど。

見たら日暮れどころか、まだ日の真ん中だったど。

いたずら狐さいたずらして、われも川さ入れられだんだとさ。

どんどはれ。

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昔あったずもな。

あるところに何もかにも大きな頭の男、あったずもな。

その男は、何もかにも面[つら]つき悪くして歩いてたど。

それを見た友達のサ「これこれ、おめえ、面付き悪るが、どこか塩梅でも悪るが〜」ってしたと。

その男「いやいや、どこも塩梅悪くはねえけど、こりゃこの頭、見てくれろ。

こんなに髪の毛のびてしまったども、どこの床屋サ行っても、あんまり頭大きいから、切ってける所ねえ。

」友達「何たら、おめえそんたらこと苦してたか。

おれ、切ってけるからな。

」それから、その友達、剃刀研ぎをした。

毎日さっさっ、さっさっと研ぎ、三日三晩かかってようやく砥ぎ終った。

次には、その大きな頭を寄せて、毎日、摺[す]り始めた。

今日も明日もあさっても、毎日のように。

その大きな頭を摺り上げるのに、7日7晩かかったという。

“ああ、これで終った!”と思ったとたん、頭に傷を付けてしまった。

さあ、血止めをせねば、と思ってあたりを見回したが、何もない。

着物の袂[たもと]をひょっと見ると、柿の種が一粒出てきた。

“これでいい。

”とばかりに、傷の所におっつけて、血止めをした。

終ったよ、と言うと、頭の大きな男は、「いやいや、お蔭さんで頭も軽くなったサ、ありがてエ、ありがてエ」と言いながら帰って行った。

帰っていったはよかったが、それから何年か経つと、柿の種から芽がでた。

さあその木のよく育つこと、育つこと。

何ともいえないほど、大きな柿の木になってしまった。

秋になって、真っ赤に熟れた旨そうな柿を取って食べたら、もう本当に旨かった。

頭の大きな男は、「いやあ、こんなな旨えもの、おれバリ食っていられねえ。」「・・・そうだ、お城の殿様サ、持って行かねば。」お城に持って行った。

「殿様もし、殿様もし。これ、頭の上サ成った柿だから、食ってみてがんせ。」

殿様は、喜んで、「いやあ、いやあ。そんなな珍しいもの貰って申し訳ねえ」頭の大きな男は、お土産を貰って帰ってきた。

そうしたら、近所の人達は、「おらも、頭の上に生えた柿の木に成った柿、食いてえ」「さあ、おらも食いてえ、われも食いてえ」「おれサも売れ、われサも売れ」その柿は、皆売れて無くなった。

すると柿屋がごしぇやいた。

「人、馬鹿にして。どこに頭の上サ成った柿など、そんなな馬鹿なこと、あるはずねえ。あの柿の木、みんなして切ってしめえ」

みんなして柿の木を切ってしまった。

頭の大きな男は、「いや、いやあ、頭も軽くなったし、えがったな。」と喜んだ。

・・・次の年、秋になった。

その柿の木の根っこに、旨そうなキノコがいっぱい生えてきた。

食ってみたら、その旨いこと。「いやいや、おれバリ食っていられね。お城の殿様サ、持って行かねばね。」と、お城に持って行った。

「殿様もし、殿様もし。これ頭の上の柿の木の根っこのキノコだから、食ってみてがんせ。」またまた殿様は、大喜びになった。

「いやいや、そんな珍しいもの貰って申し訳ねえ」またいっぱいおみやげを貰って帰ってきた。

さあ、近所の人達は、わっと押しかけた。

「あや、おらもそのキノコ食いてえ」「おらも食いてえ、われも食いてえ」「おれサも売れ、われサも売れ」キノコは、皆売れて無くなってしまった。

これを知って、キノコ屋がごしぇやいた。

「人、馬鹿にして。どこにして、頭の上の柿の木の根っこサ成ったキノコなど、そんなな馬鹿なことあるハズねえ。あの柿の木、皆してすまうべす。」皆でかかって、キノコ屋が柿の木の根っこを掘ってしまった。

そうしたら、何ともいえないほど大きな穴になってしまった。

「こんなな穴洞、何じょうしたらいかんべ。」そこで、水を張って鯉を飼うことにした。

その鯉はどんどん育って、何ともいえないほど、見事な鯉になった。

食べてみたら、その美味しいこと。

また、「お城の殿様のところに持って行かんべ」と、思った。

「殿様もし、殿様もし。これ頭の上の池サ放した鯉だから、食ってみてがんせ。」殿様は喜んだ。

「いやいや、いつも珍しいもの貰って申し訳ねえ」又、帰りに、いっぱいおみやげを貰って帰ってきた。

この評判を聞いて、近所の人達は、わっと押しかけた。

「おれもその鯉食いてえ、おらもその頭の上の鯉、食ってみてえ」「おれサも売れ、われサも売れ!」鯉は皆売れて、無くなってしまった。

そうすると、鯉屋がごしぇやいた。

「人、馬鹿にして。どこにして、頭の上の池サ放した鯉など、そんなな馬鹿なことあるハズねえ。あの池、皆して埋めてしまえすまうべす」鯉屋がみんなかかって、大きな池を埋めてしまった。

何ともいえないほど、だだっ広いところができた。

「こんなな、だだっ広い所、ただで置かれねが、何じょもしたらよかんべか。」「いい、いい。それなら秋になったら、大根の種でも入れてみたらよかんべか?」そこで、だだっ広い所に大根の種を一粒、入れてみたそうだ。

さあ、この大根も育つわ、育つわ。

途方もなく大きな大根になった。

秋になって掘ってみると、十里[じゅうり]もある大根だったそうだ。

・・・ところが。

その大根をたった二人で食うと、あっという間に無くなった。

「十里の大根でもたった二た口で無くなったのは、五里、五里[ゴリ、ゴリ]食うからです。これで、ただ一枚の葉っぱさえも無くなったのです」これが本当のハ、ナ、シ、だとサ。

どんどはれ。

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昔、上方に大きな空(から)ぼが(うそ)吹く男あったど。

ある時、岩手の遠野にもぼが吹きあることを聞いて、ぼが比べに来たど。

尋ねると童子が出てきたど。

「じぇ、親父いだか」と聞くと、その童子「ああ親父が?今岩手山転ぶとこだって、オガラ三本持って突っ張りかいさ行った」って言ったど。

このクサレガギと思って「ほんだら、お袋は」って聞くと、童子は「ああ、お袋が、今海の水越えるとこで、鍋のふた持って行った」って答えたど。

上方テンポも負けね気で大きく吹いたど。

「この間の大風で、奈良の大仏の釣鐘飛んだが知らねが・・・」童子は、一向たまげねで、「ああ、あれだな」と言って、「三日ばかり前にクモの巣さ引っ掛かって一日中嶋ってたが、どこさか飛んでったや」ったど。

上方テンポは、(こんな童子でさえ恐ろしい空ぼが吹くもの、どんたなおやたちだべ)と恐れをなして帰ってったどさ。

どんどはれ。

                                目次へ戻る

昔、餅の好きな和尚様と小僧といたど。

ある時、和尚様は餅が食いたくなったが、小僧には食わせたくないから使いに出したど。

「小僧、何本立ったか、隣の建前見てこう」小僧は見さ行くふりして、隙間から見ていたずもな。

そしたら和尚様は鏡餅持って来て、囲炉裏の灰の中に入れたど。

小僧は、その餅が炊けた頃を見計らって帰って来たど。

和尚様が「見て来たが、柱何本立ったっけ」と聞くと、小僧は火箸を持ってあぐ(灰)を突ついたど。

「はい、ここさ一本、ここにも一本」と程よく焼けた餅さ火箸をさしたら、餅が出て来たど。

小僧は知らねふりして、「和尚様、これ何だマス」って聞いたど。

和尚様も因ってしまって、「お前さ食わせべと、焼いてら餅だ」って言ったんだど。

それで、小僧に餅を食われてしまったんだどさ。

どんどはれ。

                                目次へ戻る

昔、雷様にいい息子いたったど。

その息子さ隣村から、これもまたいい嫁ご来たど。

儀式も済んで、嫁様も郎断し取ってお披露目となったど。

嫁様、われ拵え(こしらえ)て来た三つ重ねのお重持って出て来たど。

一の重の蓋取ったところ、何もかにもうまそうな煮しめがいっぱい入っていたど。

「これハ、なんたらうめえ煮しめだべえ」って、みんな御馳走になったど。

煮しめ、なくなったずもな。

次に、二の重の蓋取ったら、臍(へそ)の佃煮いっぱい入っていたど。

長い臍から丸い臍、三角の臍から出臍まであって、これもみんなして御馳走になったど。

「何たらこの臍この佃煮のうめえごど。

料理の上手な嫁様もらって、いがったな」って、さっぱりと食ってしまったど。

次は三の重だなと思って、お客さんだちが待ったども。

嫁様ぁ一向に蓋取る様子がねがったずもな。

お客様たちみんなして、「なんたら嫁様、みんな待ってるが。

蓋こ取って御馳走してがんせじゃ」って言ったど。

ところが、その嫁様は「そんだって」って、面こ赤くしたど。

そして、「なんぼおれだって…。

臍の下まで御馳走するわけには行かながんす」って言ったんだとさ。

どんどはれ。

                                目次へ戻る

昔、ある所に少し足りない婿があったど。

嫁ごの里さ行って大したうまい「団子」というものを御馳走になったど。

男は忘れねように「団子・団子」って帰ったど。

ところが、ペっこな(小さな)川っこを渡るとき「どっこいしょ」って跳ね越えたんだど。

家さ着いてから男はすぐ、お母さ「どっこいしょ作ってけろ」って頼んだど。

さあ、お母も困ってしまったど。

「どっこいしょって何だべ」と聞くと男は「どっこいしょも知らねのが」って、そこにあった薪でお母のでんび(額)を叩いたど。

お母は 「何するこの、団子のようなこぶ出たが」って言うと、男は「それよ、その団子よ」って言ったんだとさ。

どんどはれ。

                                目次へ戻る

大昔、母神様が三人の姫を連れて、今の伊豆権現の辺りさ通りかかったど。

ある晩、母神様が言ったど。

「今晩、眠っているうちに、天から蓮華の花が降りて来るから。

その華が胸のうえさとまった姫に早池峰山を上げるからナス」夜が更けたら、本当に蓮華の花が降りて来て姉姫の胸のうえに止まったど。

それを丁度目を覚ました末の姫が見つけて、こっそり自分の胸の上に乗せてやすんだど。

朝になって、約束だからということで末姫は最も美しい早池峰山を貰ったし、姉姫たちはそれぞれ六角牛と石上山を貰ったど。

遠野の女たちは女神様の焼き餅を恐れてお山かけをしなかったんだとさ。

どんどはれ。

                                目次へ戻る

昔、早池峰山に初めて道をつけたのは、附馬牛猟師なんだど。

その人が半分位道を拓いて小屋掛けしてた時のことなんだど。

ある日、小屋で餅を焼いて食っていたところが、なんとも大きな坊主が小屋の中さ入って来たんだど。

はじめは珍しそうに餅の焼けるのを見ていたが、手をのばして餅を取ったと。

猟師もおっかないから進んで餅をさしのべたら喜んでみんな食ってしまったど。

それから毎日来て、大事な餅はなくなるし猟師も困ってしまったんだど。

そこで、餅と一緒に白い石を焼いて待っていたど。

やっぱり大坊主が来て、勝手に餅を食い始めたと。

餅がなくなると、あの白い石にも手をのばして口の中へいれたが、何もかにもたまげて小屋から走り出したんだど。

それからしばらく経って、この大坊主が谷底で死んでいるのを、見つけた人があったんだどさ。

どんどはれ。

                                目次へ戻る

昔、ある年の田植時、会下の十王様の別当殿で、家の人達がみんな熱病にかかったど。

稼ぐものもないし植え付けもできないから、別当殿の田圃だけは、まだ黒い土のまんまでいだったど。

ある朝、隣の男が「こりゃ困ったんだなあ」と、思って自分の田圃を見回ったついでに、別当殿のほうまで足をのばしたど。

そしたらなんと、だれがいつの間に植えたのか、どの田圃も青々と植えてあったと。

「ありゃ、何たら昨日まで『うんうん』って唸って寝てらっけが、いつ植えたんだべ」と思って別当殿さ回って覗いてみたど。

そしたら、田植えどころの騒ぎでない。

みんな枕を並べて苦しがってらったど。

「おかしいこともあるもんだ」と思って、帰りぎわにひょいと十王堂を覗いてみたら、十王様たちがみんな、腰から下を泥だらけにしていたったどさ。

どんどはれ。

 

*十王様

死後の世界である冥府(めいふ)で亡者を裁く10人の王をいう。すなわち、秦広王(しんこうおう)、初江王(しょこうおう)、宋帝王(そうたいおう)、五官王(ごかんのう)、閻魔王(えんまおう)、変成王(へんじょうおう)、泰山王(たいせんのう)、平等王(びょうどうおう)、都市王(としおう)、五道転輪王(ごどうてんりんのう)の総称である。

                               目次へ戻る

昔、あったずもな。

オクマンサマの坂で子供たちが大勢で騒いでいたったど。

近所の爺様が「なんだべ」と思って見に行ったら、ご神体をそりっこにして遊んでいたど。

爺様はたまげて叱りつけたと。

「遊ぶに事欠いて何する、このがき共。

今にケツが曲がってしまうぞ」爺様はご神体の雪を払ってお堂に収め、実に良いことをした積りで、家に戻ったど。

ところが、家に帰った途端にめまいがし、大変な熱が出て床についたんだど。

あんまり不思議だから、家の人達が巫子さ行って拝んでもらったど。

そしたらオクマンサマが出て怒ったど。

「お前のどこの爺さまは何たらお節介な奴だ。

折角子供たちと一緒に面白く遊んでいたのに、お神酒と小豆飯を上げねがったら命とるぞ」恐ろしい御託宣に驚いた爺様は、家の人達さ頼んで、早速神様の好きな物をあげてお詫びをし、許してもらったんだとさ。

どんどはれ。

                                目次へ戻る

昔、松崎に綾織から来た巫子がいたったど。

一人娘に婿をとったが気に食わなかったど。

そうはいっても二人は仲がいいから巫子は機会を待っていたど。

その頃猿ヵ石川が毎年大水になり、用水を取り入れる堰が壊れて村中困っていたど。

それで村野人達は巫子さ機器に行ったら「人柱立てればいいんだ。

明日の朝、白装束で白馬さ乗った者来たら、捕まえて堰の主になって貰えばいい」って教えたど。

それで村の人達も従うことにしたど。

巫子の方では婿を呼んで、丁度その時刻に通りかかるように附馬牛さ用達にやったんだど。

婿は、白装束で村の人達に捕まったど。

神様のお告げとあれば仕方ね」って水に入ろうとしたら、白装束の娘が来て「人柱は男蝶女蝶が揃わねばねぇんだがら」って一緒に川底に駆け込んだど。

母親の巫子は自分の浅はかさに気づいて、後を追って死んだんだど。

それからというもの、堰は壊れることがなかったど。

村の人達は若夫婦を堰神様、巫子を母也明神として今でも祭ってるんだとさ。

どんどはれ。

                                目次へ戻る

昔、小友に長者があって、そこに一人の下人がいたど。

この男は暇さえあれば「芋を掘る」と言って金鉱さがしをしていたったど。

村の人達は「芋掘り芋掘り」と言って馬鹿にしていたが、ある時、べこ(牛)の形をした金鉱石を掘り当てて小松殿といわれる長者になったど。

小松長者は大勢の金堀り共を頼んで、もっと大きな金鉱をねらったど。

中々うまくいかなくて、世間からまた「芋掘り殿」と馬鹿にされていたが、丸三年目の大晦日に、牛の形をした親金を掘り当てたど。

元旦のめでたい日。

黄金の牛の角に手綱を結んで引かせたらポキッと折れたど。

今度は首に結んで引っ張ると、黄金の牛が二、三歩うごいたかと思った途端、ドンガリと落盤して金堀共が七十五人死んでしまったど。

このとき、ウソトキという炊事男もいたど。

正直で孝行者だが融通の利かない所があって、抗夫たちからは馬鹿扱いされていたど。

この日は、「人手が足りないから」ということでウソトキも駆り出されて抗の中で綱に取っ付いていたど。

すると不意に坑口で「ウソトキウソトキ」と呼ぶ声がしたど。

出てみても誰もいなかったど。

又入ると呼ばれるが誰もいない。

今度は鋭い声で「ウソトキッ」と呼んだから、綱から手を離し「だれだっ」と坑口へ出たど。

ほんとに、片足出るか出ないかの瞬間に、ドチンと落盤して、ウソトキ一人だけが助かったんだとさ。

どんどはれ。

                                目次へ戻る

昔、猿とカニが餅つきをしたんだど。

猿は力持ちだから、たちまち餅がつけたんだど。

そしたらカニに食わせるのがおしくなった猿は、カニをおどして臼のまま山へ走って上がったど。

カニも助けたつもりだから、「猿殿、おれさもぺっこけろー」って追いかけたら、餅が落ちていたったど。

カニはごみをはだけて「むちゃむちゃ」と食ってしまったど。

サルも気がついて降りて来て「このくされガニおれの餅よこせ」ったど。

カニも負けないで、ごみのついた餅を集めて、サルの面さピッターンとぶっつけたど。

猿が怒ってその餅を引っ張ったら、自分の面の皮まではげてしまったんだど。

猿の面はその時から赤くなったんだとさ。

どんどはれ。

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昔あるところに、可愛い姉妹があったど。

餓死時で食うものがないから、姉が山から「ほど芋」掘って来て、固いところは自分が食って中の柔らかいところだけ妹に食わせたど。

妹は「おれのでさえ、こんなにうまいもの。姉っこのなんぼうまいべ」と思って、包丁で姉の腹を裂いて見たと。

姉は「おめさば美味しいところ食わせたのに。おれは固い所だ。がんこがんこ。「かっこう、かっこう」って郭公鳥になって飛んでったど。

妹もすぐに気が付いて「あやあ、おら大変なことした」って「包丁かけたか、ほうちょうかけたか」ってホトトギスになってとんでったんだとさ。

どんどはれ。

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昔、川獺と狐が、お互いに雑魚を取ってご馳走し合うことに約束したんだど 狐はずるいから、ご馳走にばかりなって、「おれ雑魚の取り方知らねも」と言って川獺のことを招待しなかったど。

怒った川獺は「それなら寒い晩に川さ行って、尾っぺ垂らしておけばいいんだ」って教えたど。

狐は教えられた通り、寒い晩に川さ行って尾っぺ垂らしていたど。

尾っぺさ魚あたっても「もう一匹もう一匹」とがまんしているうちに夜が明けたど。

人の姿が見えてから、帰ろうと、尾っぺを引っ張ったら抜けなかったど。

あせって引っ張ったら、狐の尾っぺは根元からスッポーンと抜けてしまったんだとさ。

どんどはれ。

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昔、長者の家の前さ立て札が立ったど。

「一把の藁十六把にした者娘の婿にする」村の人達、立て札の前さ集まって「こんなこと出来ねんだじぇ」って騒いだど。

いつもは稼がない男が、何を考えたのか「ほで、おれ行って婿のなるがら」って出掛けたど。

男は、藁一把ポンと投げてから唄ったど庭(二把)の隅っこに鍬(九把)ござる。

婆様の面には皺(四把)ござる。

わしの投げたるその一把合わせて十六把十六把、長者は感心して約束通り娘の婿にしたんだとさ。

どんどはれ。

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昔あるところに、爺様と三人の娘がいたど。

山の畑の草があまり生えているから爺様が「だれかこの草取ってけだら、娘一人嫁ごにけるがな」と独りごと言ったど。

そしたら山の猿が聞き付けて、その草をみんな取ってけだど。

約束して猿は帰るし、爺様は心配になって娘に相談したど。

上の姉は「だれ猿などの嫁ごに、やんたます。」って断ったど。

中の姉も「だれ猿などの嫁ごに、やんたます。」って断ったど。

末娘が「おれ行くがら、爺様心配すんな」って猿の嫁ごに行ったど。

里帰りの時、娘が「おらえの爺様、餅好きだがな」って言うから、猿は餅をついたど。

また、娘が「おらえの爺様土臭いのきらいだがな」って言うから、猿は臼のまま餅を背負ったど。

途中まで来たら、娘が「爺様、藤の花っこ好きな人だがな」って言うから、猿は臼を背負ったまま木さ上がったど。

娘が「もっと上、もっと上」って言うから、一番上の枝にとっついたら、枝がポキーンと折れて、猿は臼を背負ったまま真っ逆さまに淵さ落ちてしまったど。

そして川下さ流されて行きながら、こんな歌をうたったど。

猿沢や猿沢や 流れ行く身は いとわねど あとのお文こ 嘆くべじゃやい

どんどはれ。

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昔、ある所にとても仲のいよい夫婦があったど。

ある時、がが様がさっとした風邪がもとてぽっくり死に、旦那殿ァ三度の飯も喉さ通らなくなったど。

ある晩、その家に若い女が尋ねて来たど。

食う物も着る物もないからって断ったが「軒の下でもいいから」というので、気の毒に思って中に泊めたど。

女はそのまま居着いて、いつの間にか一緒になったど。

その内に女は腹が大きくなりお産部屋作ってもらうと、「一週間だけ絶対覗かないように」と頼んで中へ入ったど。

それでも男は心配で小さな隙間っこ見つけて覗くと、大きな蛇がとぐろを巻いて子供をあやして居たったど。

正体を見られた蛇は、「おれ、ここにいられねがら、童子の坊太郎が泣く時はこの目玉しゃぶらせてけろ」と言ってずっと山奥の沼に行ってしまったど。

男は童子が泣くと目玉をしゃぶらせていたが無くなったので、山の沼へ行ったど。

「坊太郎おがあ」と呼ぶと、蛇が出て来て分けを聞くので、そのことを伝えると「これしゃぶらせろ」と残った目玉を取ってよこしたど。

そのうちに子供が大きくなり母親のことを尋ねるようになった。

子供が「獣でも蛇でもいいからお母が欲しい」と言うので男はありのままを教えたんだど。

子供は山奥沼へ一人で会いに行き、「坊太郎おがあ」と叫び、出てきた蛇に取りすがって泣いだど。

その涙が蛇の目に入って開き、同時に母親の姿に変わったど。

山の神様の呪いが、わが子の情けの涙で解けて、もとの人間に戻ったんだどさ。

どんどはれ。

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昔、あるところに爺と婆とあったど。

「正月も来るし」って爺様が笠売りに町へ行ったど。

一つも売れないから、そのまま帰って来たら六地蔵様が寒そうに立っていたど。

爺様は、雪をはらって笠を被せて家さ来たど。

婆様さしゃべったら、婆様も「はあ。ええことしたなす」って喜んだど。

二人はあるものですまして、早々と寝たど。

夜中になったら、どすんどすんと音がして、「よいしょどっこいしょ」と聞こえたど。

爺様と婆様が出てみたら、なんと縁側に銭だの米だの一杯積んであったど。

たまげて、足跡を追いかけたらあの地蔵様だったとさ。

どんどはれ。

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昔、貧乏な和尚がいたど。

一匹の虎猫を飼っていたが、夜になると決まって出て行くので、後をつけると山さ行くんだど。

なんと外の猫たちさ踊りを教えて、味噌や米をもらって和尚さんを養っていたんだど。

猫が言うには、「おれも長いことないから、和尚さんに一花咲かせてぇ。

まもなく長者の娘が死ぬが、棺桶を吊り上げるから『おれの名前』呼んでけろ」って夢に出たんだど。

予言通り娘は死んで葬式の途中、棺が宙吊りになったど。

偉い和尚がみんな呼ばれてお経を上げても降りなかったど。

最後に貧乏和尚が呼ばれて「とらやーとらやーなむとらやー」って手を合わせたら、棺が降りてきたど。

長者様は「ありがたい」って檀家になんたもんだから、みんな檀家になったど。

虎猫のお陰でこの和尚は楽に暮らしたんだどさ。

どんどはれ。

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昔、変わり者の男があったど。

町から桃の苗を一本買って来て、早く大きくしようと、肥やしをいっぱい入れて植えたど。

次の朝起きて見ると、桃の木は天まで伸びていたから、男はびっくりしたど。

それでも丁度よい機会だからと、男は天まで昇ってみることにしたど。

門番の青鬼と赤鬼にとがめられたが、にこにこ笑って「日本から来ました」とあいさつして、雷様に会いに行ったど。

雷様は、丁度夕立を降らせる所で忙しかったど。

男の顔を見ると「手が足りねえがら、お前も手伝えじゃ。

おれ太鼓叩くから、お前、桶の底を抜けよっ」って言われたど。

鬼たち火打ち石こすると、稲妻ピカピカ。

雷様太鼓叩くとゴロゴロと雷鳴るし、男が桶の底抜くとジャーと夕立になったど。

下界ではみんな干し物を取り込んだり、慌てて右往左往したり、あまり面白いから男は雲の端っこに寄って眺めたど。

男はあんまり寄り過ぎて、雲から足を踏み外して落ちてしまったど。

桑の木さ引っ掛かってもがいて男を見た雷様は「かわいそうだから、あそどば除けろ」って言ったど。

それからは桑の木には雷様が落ちないんだとさ。

どんどはれ。

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昔、あるところにお母(おが)と孝行息子といたど。

そこさ嫁ごをもらったら初めのうちは「お母、お母」っていたが、姑が年とって稼げなくなると顔を見るのも嫌になったど。

「おら、お母といるのやんた」と息子に言い、「『極楽さ行きて』って言うから連れてって山の崖からつんのめすべ」 と嫁は言ったど。

おれには、そんなことは出来ないと言うと「ほだらおれは家からでて行くます」と息まく。

とうとう息子が負け、早い方がいいと、嫁は隣からもっこを借りて来たど。

「『極楽見さ』今日連れて行くから」って言うと婆様は(何たら親孝行だ)と喜んだと。

山奥さ行って崖っぷちさ着いたら嫁が「こっから極楽見えるから降りて見てげ」 「何も見えねじぇ」って婆様が言うと「そんだら、すっかり見せっから」と言うなり、後ろからどんがりつんのめしたど。

婆様、崖を転がったが藤蔓さつかまって助かったど。

「おれのこと殺す気だな」と分かって柴に顔をかっちゃかれても這い上がったど。

日も暮れ、古いお堂さ入ってとろとろっと寝たら「がやがや」と音がしたど。

婆様が覗くと泥棒たちが分け前を分けでいたど。

婆様、覗き過ぎて戸と一緒につんのめったら、顔が血だらけだから「化け物出はった」って泥棒にげたど。

そのすきに婆様は宝物みな集めて家さ帰ったど。

戸を開けたら、嫁の顔色がすっかり変わったが知らないふりして、「お前たちのお陰で宝物貰って来た」って宝物見せたら、嫁が 欲を起こしたど。

二人で行ったらいっぺ貰えると、崖さ行って「一、二、三」で飛び込んだきり、極楽から帰って来なかったどさ。

どんどはれ。

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昔、ある家に爺様と美しい娘いたど。

ある時、殿様が狩りに来て休み、その娘に一目ぼれしてしまったど。

田舎者でわがんねというのを、是非にと乞われ奥方になったど。

ところがある日、娘は、殿の前で粗相をし「余の前で屁をひるような者は、出てけ」とぼんだされてしまったど。

親の恥になるので家にも帰れず、和尚の好意で、小屋に住まわせてもらった。

が、まもなく男の子を出産した(なした)ど。

十年程経って、またその殿様が狩りに来たら、街道の下から面白い童子が来たど。

「黄金のなるふくべの種いらねが」と言うから「本当にそんなものがあるか」と尋ねたど。

童子は「本当だ」と答え「ただし屁をたれね者が蒔かねばなんねす」と言うので殿様は笑って言ったど。

「どこに、屁をたれね人なんてねんだじぇ」 するとその童子は「ほだら、なにしておれのお母、ぼんだした」殿様は、はっと気が付いて、童子のお母と対面したら、野菊という奥方だったど。

殿様は野菊親子に謝って、またお城さ連れてったど。

世の中の人達は、名前が野菊だから「二度咲く野菊」って言ったんだとさ。

どんどはれ。

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昔、あるところに爺と婆とあったど。

婆様はうちを掃き、爺様は土間をはいていたら豆一粒見つけたど。

爺様は、「婆様この豆なじょにすんべ」ってきいたら 「畑さまくのはあっから、黄粉にもされ」って言ったど。

爺様はまた、大きな鍋がいいか、小さな鍋がいいか聞くと、婆様は「大きな鍋で煎もされ」と言ったど。

カラカラと煎った豆は鍋一杯になってしまったど。

爺様はまた大きな臼か小さな臼かと尋ねると「大きな臼でつくもせ」と婆様は答えたど。

その臼一杯になったので、太郎に、ころす(ふるい)を借りにやらせると 「馬やから入れば牛メーと、叫ぶからやんた」裏口から行けと言えば 「裏口から行けば猫ニャオと叫ぶからやんた」って言ったど。

それで婆様は「いいいい。

ほだら爺様の褌でおろすから」って褌の端でおろしたら黄粉が一杯できたど。

爺様が「棚の上だと鼠食うし、下さ置けば猫なめるし、どこさ置くべ」って聞 くと、婆様が「ほだら、爺と婆の間さ置いたらよかんべ」って言ったど。

その通りにして寝たら、夜中に爺様が大きな屁をボガーンとたれたど。

豆の粉はみんなバフーッと飛んで、婆様のけっつにくっついてしまったど。

爺様と太郎は「ああもったいねぇ、ああもったいねぇ」ってみんななめってしまったんだとさ。

どんどはれ。

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昔、気仙にびっきがいだったど。

「いやあ、おれも江戸ずう所さ行って見てえもんだ」と思って出かけたど。

モックリモックリと山上がって、遠野と気仙の境の赤羽峠さ上がったど。

「なんたなどこだべ。

ぺっこ立って見っかな」と思ってその峠さ立って見たずもな。

「なあにこれ江戸だって。

気仙と同じだじぇ。

こんなごって行かね方がいい」と思って、ぐるりと戻って帰ってしまったど。

まなぐ(目)後ろにあるびっきが、峠に立って見たもんだから、すっかり気仙が見えてしまったんだとさ。

どんどはれ。

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昔、青笹に一人の童子(わらし)がいたったど。

この童子は早くに母親亡くして継子だったど。そだから、なんぼ稼んでも継母からよく思われなかったど。

ある日、「馬っこ放しさ行ってこう」と言い付けられたど。

言われた通り馬っこ連れて高原さ来たところ、突然四方から火をかけられたど。

なんぼしても逃げ場がながったから、童子は諦めて大好きな笛っこ出して吹いたど。

しばらくして火は消えたが、そこに童子の姿はなかったど。

そして、笛っこの音色だけが高原さ残っていたんだど。

童子が笛を吹きながら死んだこの峠を、後の人達が「笛吹峠」と呼ぶようになったんだとさ。

どんどはれ。

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むかしあったずもな、上閉伊郡松崎村字ノボトに茂助という男が住んでいたんだと。

茂助には娘がいたんだと。

それがある日の秋頃になぁ、裏にある梨の木にいったまま帰ってこなかったんだと。

梨の木の下に草履を置いたままでなぁ、村人はなじょしたべぇ、って探したんだどもとうとう見つからなかったんだと。

それがなぁ、ある年の大嵐の日にその娘はひょっこり帰ってきたんだと。

その姿たるやほんに奇怪な姿でなぁ、肌には苔がびっしりと生い茂り、爪は二三寸も伸びてなぁ、その姿たるややまんばだったんだと。

一晩とまって帰っていったんだども、それからというもの毎年毎年やってきてなぁ、そのたびに強い風がぐわんぐわん吹いて強い雨がどさー、どさー、と降るようになったんだと。

それで村のもんはやまんばがくるたびに難儀してたまんねぇからって、巫女や山伏に頼んで青笹村との境に石塔を建ててなぁ、こっちより中に入るな、って封じたんだと。

その後やまんばはこなくなったんだと。

んだども、石塔は大正元年の大洪水の時に流されてしまってなぁ、またやまんばが茂助の家に行くかもしれねぇな。

どんどはれ。

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昔、ねずみたちぁ参宮さ行ったど。

行くが行くが行ってば、川あったったど。

でも、橋が、かかってねがったずもな。

たぶんと入って起き上がって、耳こばたばた、尾ぽこちゅうちゅう。

たぶんと入って起き上がって、耳こばたばた、尾ぽこちゅうちゅう。

たぶんと入って起き上がって、耳こばたばた、尾ぽこちゅうちゅう。

たぶんと入って起き上がって、耳こばたばた、尾ぽこちゅうちゅう。

   ・ ・   ・   ・   ・(どこまでも続きます)

どんどはれ。

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